この本は、柳澤桂子氏という生命科学の科学者が、「人間の本質とは何か」という問いに対し、科学的なアプローチから答えを導き出そうと試みた画期的な本です。 非常に重大・難解なテーマについて、科学の基礎知識のない一般の人にも理解できるよう、若い男女の登場人物によって小説形式で話が進んでいき、とてもわかりやすく印象深く作り上げられている本です。
私にとっての生涯の研究テーマは、1.人間とは何者か 2.神とは何か 3.自意識とは何か と言うことなのですが、こういうテーマを考えていくとどうしても、「神」「霊魂」「超自然現象」等、オカルト的な事象を避けて考えを進めていくことは出来ず、自分自身、他人に対して考えを伝えることに非常に躊躇してしまうのですが、この本に出会い、自分の考えてきたことの方向性が間違いでないことに非常に勇気づけられました。
著者の柳澤女史も小さい頃から、「自分はいったい何者か?」と言うことに深く興味を抱き、科学者としてその問いに答えを出そうとされてきた方で、私と世代は違うにも関わらず、全く同じようなテーマを研究されてきた方がいらっしゃるのだと大変驚きました。
この本の中で私にとってもっとも大きな収穫は、「遺伝子に記憶は刻まれるのか?」という問いに対し明確に「遺伝子に記憶は刻まれる」と科学的に断言されたことでした。 以前私はある科学者に「遺伝子には記憶が残されているはずだ」と言ったら、即座に「それだったら遺伝子が神になってしまう」と否定されたことがあったのですが、まさにこの科学者が喝破したとおり、「遺伝子イコール神」と言うのが私の理論の中核を成す事柄であったので、この本によって私の考えてきた事柄の理論構成の確実性が大きく前進したように思います。 なぜ、遺伝子に記憶が残ると神になってしまうかと言う点については、話が非常に長くなってしまいますので、後日OPINIONのページに書きたいと思いますが、人間とは何かという、根元的な問いに対し、少なくともここ2000年の人類の歴史の中でも、科学的に研究されてきた形跡はありません。
古代の哲学にしても、今に続く宗教にしても、まず「今ある人間ありき」から話がスタートしているので、「人間社会」と「人間以外の社会」との関係については一切触れられていません。
21世紀には、そろそろこの根元的な事柄について、「人間」の衆知を集めて研究する必要があるのではないでしょうか? そうでなければ、数千年・数万年後の歴史学者から、「地球の環境を極端に悪化させ、自分(人間)以外の種に対して、残虐極まりない支配を行った悪魔のような生物」と規定されてしまうこととなるでしょうから。